Lightningの創設者、ビットコインへの量子脅威は遠いが無視できないと語る

出典：PortaldoBitcoin 元タイトル：Lightningの創設者、量子コンピュータによるビットコインへの脅威は遠いが無視できないと語る

量子コンピュータがビットコインに与える脅威は、まだ現実となるには程遠いものの、SFとして片付けるべきではない。これは、ビットコインエコシステムの主要研究者の一人であり、ネットワーク上で即時決済を可能にするセカンドレイヤーソリューション「Lightning Network」の共同創設者でもあるTadge Dryjaの見解だ。

インタビューで彼は、破壊的な事態が起こるまでには数十年かかる可能性が高いとしつつも、低い確率でも無視できない危険だと語った。「私の生きている間には起こらないほうに賭けると思う。でも仮に5%の可能性しかなくても、備えを怠るには十分悪い数字だ」と述べている。

さらにDryjaは、ビットコインは他の技術より安全域が広いと説明する。というのも「ハーベスト・ナウ、ディクリプト・レイター（今データを収集し将来復号する）」のリスクがないからだ。「ビットコインでは、30年後に誰かの秘密鍵が判明しても、そのコインはすでに動かされている。だからEメールや暗号通信ほど緊急性は高くない」と話した。

Dryjaは現在、Lightningのようなネットワークが量子耐性の署名方式で安全に運用できるかどうかを研究している。技術的には移行は可能だが、重要な制約があると評価する。

「ポスト量子Lightningは実現できる。遅くなるし、面倒になるし、いくつかの機能は使えなくなるかもしれない。でも可能だ」と要約する。

潜在的な損失の一つは、開発中の高度な機能であるPTLC（Lightningで支払いルーティングに使われるコントラクトの改良版）などだ。「もしポスト量子署名へ移行が必要になれば、PTLCは使えないかもしれない。それは残念だ。今開発している面白い技術だから」と述べた。

Dryjaはまた、構造的な課題も強調する。オンチェーントランザクションとは異なり、Lightningチャネルでは同じ鍵で何千回も署名を繰り返す必要がある。多くのポスト量子アルゴリズムはこのモデルとの相性がよくない。「署名の研究者たちと協力して何が適用できるかを模索している。Lightningは従来のビットコインと全く異なる形で鍵を使うからだ」と説明した。

その他の脆弱性とLightning Networkの将来

量子脅威以外にも、DryjaはLightning Networkのより差し迫った課題について言及した。このシステムは2015年に彼とJoseph Poonが、ビットコイン上で即時かつ低コストの決済を可能にするために作ったものだ。

彼によれば、資金盗難の観点では本質的に安全だが、サービス拒否攻撃や直接的な資金損失を伴わない悪意ある行動には今も脆弱性がある。「相手はあなたの資金を盗めないが、あなたの時間を浪費させることはできる。Lightningの攻撃は多くがこれで、チャネルを閉じて手数料を払わせたりする。これを完全に解決する方法はまだ分かっていない」と述べている。

また、興味深いシナリオにも触れた。実際にこれらの脆弱性を突こうとする攻撃者が少ないため、ネットワークの備えが十分でないという状況だ。「Lightningの問題の一つは、みんなある意味で友達だということ。誰も本気で攻撃しようとしないから、実際の攻撃にどう耐えるか予測しづらい」と語った。

ルーティングの課題については、プライバシーと効率性のトレードオフがネットワーク進化の中心的なテーマだと指摘する。ノードがチャネル残高を知らないことでルーティングはよりプライベートになるが、非常に難しくもなる。「残高をもう少し知ることができればネットワークの動作は良くなる。でも多くの人が完全なプライバシーを主張する。それは難しいトレードオフだ」と解説した。

また、今後数年でビットコインを変革しうる技術として、彼自身が主導するUtreexoやBitVM3、Ark、ノード間の新しい暗号化通信手法などを挙げた。「ネットワークはより堅牢で効率的になってきている。しかも多くはユーザーが気付かないところで。今後10年でたくさんの新しいことが起きると思う」と述べた。